文章を書くことが子供の頃から好きだったが、自分の書く文は、なんかダメだなと思っていた。学校で出す作文などは特にダメで、賞などに選ばれたことはもちろんない。
友達に手紙を書いたり、交換日記を書いたりも楽しくやっていたが、返事として書かれた友達の文章の方がいいなと思うことが多かった。悔しくて言わなかったが。
誰にも見せないノートに殴り書きする日記だけ、少しいいかなと思っていた。でも人が読む時に書くものと何が違うのかよく分からなかった。
それが少しわかった気がしたのは、一冊の本を読んだことがきっかけだった。三十代の終わりに読んだ、藤原ていさんの「流れる星は生きている」だ。
ちなみに有名な本なので知っている人も多いと思うが、これは満州引き上げの壮絶な体験を元に描かれた本で、文章の書き方の本では全然ない。
作者はこの本を書いた当時、作家ではなく一主婦だった。いわば素人だった訳だ。でも当時の私自身の文章を読む時に感じていたストレスみたいなものは、もちろんなく、内容がツルツルと頭の中に入ってきた。まず、一口に主婦と言っても、さまざまな個人なのだから、素人と侮るのがそもそもおかしいのだが、その時は、つい読みながら違うところを探してしまった。お話にも衝撃を受けたが、同時に文章に引きつけられたのである。
その結果導き出した良いと思える文章のポイントは以下の通り。
・実際に起きた物事や感情を過不足なく描いている。(自分をよく見せるためなどに、事実を半ば無自覚に変えてしまうことはありがちだが、それがないように感じる)
・自分以外を描くことで作者自身が浮き上がっている。(読者が「?」と思いがちな、自分が自分がという表現をしていない。でも作者の人物像は伝わる)
つまり客観的な視点と、正直さが重要に感じ、以後文章を書く時は心がけていて、ちょっとマシになったかと思っている。今ものすごく自分の首を絞めている。
ところでこの文章のタイトルを「文章の教科書にした本」にしようと思ったがやめた。教科書と言えるほど読み込んでいないし、実物も手元にない。当時は図書館で借りて読んだのだが、これを機会に買って再読してみるのもいいかもしれない。
未だなかなか良いと思える文章は書けないが、引き続き好きでやれたらいい。