じゅげむを覚える

昔、手ぬぐいを集めていた。
しかし今では熱も冷め、使う分あればいいと思うようになり、新しいものは買わず、淡々とタオルの代わりや、ハンカチとして使っている。

たくさんあるので、一枚職場に持って行った。最近購入された紙コップのホルダーをゆすいだ後、拭くものがなかったからだ。
ふきんを買ってもらえばいいのだが、多分自分以外使わないだろうし、申し出るのも億劫だった。

ところで、持って行ったのは、じゅげむが書いてある手ぬぐいだった。落語を見に行った時、お土産に買ったものだ。
カバンから取り出したそれを、ひとまず自分のデスクの引き出しの奥にしまった。

すっかり引き出しの中の手ぬぐいの存在を忘れた頃のある日、ハンカチを忘れた。半乾きの手が周りに触れないよう気を配りながら、なにかハンカチがわりになるものがなかったか、カバンの中を思い出していた。
一番よくやるのは、お弁当包みをハンカチにしてしまうことだ。ほぼハンカチだし、なんならハンカチより大判で使いやすい。お弁当を持ってきていない時は、エコバッグ。これはポケットに突っ込む訳にはいかないので、カバンにさりげなく手を入れて拭く。かなり苦しい。
そして引き出しの中の手ぬぐいを思い出したのだった。
おかげでその日は、吸湿性が良く、面積もたっぷりある手ぬぐいで、一日中しっかりと手を拭くことができた。

洗濯をするために持って帰って洗い、乾いたそれを畳む時、思った。
これを買って何年も経つのに、未だじゅげむを言えないのは、どうなんだろう?
いっちょ覚えてみようかと思ったものの、はじめは全然頭に入らなかった。言葉の意味がわからないからだ。
まず、じゅげむがわからないし、水行松もヤブラコウシもわからない。シューリンガングーリンダイ?全然わからない。
ネットで調べた。もう意味はほとんど忘れたが、みんな縁起が良かったことは覚えている。
シューリンガングーリンダイポンポコピーポンポコナーも人の名前だったことには驚いた。

それで意味がわかると、なんとか頭に入り、覚えられたのである。
何の役に立つということもないけれど、じゅげむを言っていると、なんだか楽しい。
結局その手ぬぐいは、家で使っている。職場では使い捨てふきんを使っている。